人間はいつ頃から宝石の採掘を始めたのでしょうか。第1章で各宝石の由来に触れましたが、記録に残っていない採掘もかなりあったことと想像できます。宝石の原石は川や海岸に運ばれる砂や土に混じって産出することも多く、それを漂砂鉱床といいます。火山活動などで生成された原石が地殻変動で地表近くに押し上げられ、それが雨や風で運ばれ鉱床になるのですが、このような鉱床は地面近くに見つけやすいといえます。スリランカには南部に数千の漂砂鉱床があります。漂砂鉱床の場合には、スリランカにかぎらず、土着の人間がかなり古くから宝石の原石を見つけたでしょうし、それが宝物として珍重されたと想像できます。
漂砂鉱床に対し、一次鉱床があります。これは宝石の原石ができた所にありますが、何らかの原因で地中深くから地表に押し上げられた所をいいます。一次鉱床は大規模な採掘が必要です。ダイヤモンドの場合では、歴史的鉱山であるインドやブラジルは漂砂鉱床ですが、南アフリカのキンバリイは一次鉱床です。南アフリカで見つけられた最初の1個は偶然でしたが、その後近くに一次鉱床が見つかって大規模な採掘になったわけです。
24種類の宝石の中で、最も古くから採掘されていたのはトルコ石、ラピス・ラズリ、アメシストであったようです。またアクアマリン、ダイヤモンド、エメラルド、ライト・オパール、ペリドット、ルビー、トパーズが紀元前から使われていたことが確認されています。
エメラルドはエジプトのクレオパトラ鉱山のあまり上質でないものが中近東、ヨーロッパで使われていました。一方、南米の先住民たちは、16世紀のスペインの侵略以前までは、長い間あの美しいコロンビアエメラルドを珍重していたと思われます。エメラルドの歴史をひもとくと、500年前の南米大陸が独自の文化を育んでいたのがわかってくるのは興味深いことです。