ダイヤモンドは前述したように自然界でもっとも硬い物質で、中世のヨーロッパではダイヤモンドは原石のまま、または原石の面を研磨した状態で、女性の装飾品としてではなく、戴冠式のマント、笏(しやく)、王冠、刀の鞘(さや)などに使われました。15世紀の初頭までダイヤモンドの研磨産業の存在は、ヨーロッパでは事実上知られていません。15世紀にダイヤモンドパウダーがしようされ、より正確にファセットがつけられるようになりました。さらに1520年頃ローズカットが発明され、急速に広まって、1900年頃まで一般的に使われていました。ローズカットは薄手の原石を目減り少なく輝かせるのに適していますが、分散光の美しさは期待できません。また19世紀後半に流行したボヘミアのパイロープ・ガーネットもこのローズカットに研磨されました。
17世紀の中頃になってブリリアントカットが発明され、17世紀末にはベニスのビンセント・ペルツィによってクラウン部分が32面のものに改良されました。これはクラウン(上部)32面、パビリオン(下部)24面、テーブル1面、キュレット1面の計58面あり、現在のブリリアントカットの原型となるものです。
原石のカットは、その宝石の持っている美しさを最大限に発揮させることと、目減りを最小限に抑えるようにファセットをつけることとを両立させなければなりません。インドでは特に原石に近い形を残して目減りをしないように、キズの部分を取り除きカットをしてきました。特にthick stoneは「インディアンカット」と呼ばれ、また原石の平らなものはそれに合ったthick stoneにされました。thick stoneとthin stoneはインドのほか、中近東(ペルシャ、アラビア、バグダッド)で好まれていました。ムガールカットと世慣れているものは、原石の形に沿ってできるだけ目減りしないように表面を磨いただけで仕上げられています。
通常、掘り出された原石は産地ごとに優劣で分類され、ファセットカット、カボションカット、その他のカット、研磨しても仕方のないものに分けられます。研磨地では大粒のものは別にして、おおよそ5段階程度が品質の分類の基本になって、包みごとに値段がつけられます。通常1個1個の値段は消費地でつけられます。またカラーストーンの研磨業者は産地による原石の特性が大きく異なるため、原則として原産地ごとに扱います。
1960年代に始まったインドのダイヤモンド研磨工業の大躍進には目を見張るものがありました。ダイヤモンド原石の増産は小粒の工業用に近い原石の産出を急増させ、それにインドのダイヤモンド研磨工業が対応していったのです。一方でダイヤモンドの大衆化が進行し、1992年には世界のダイヤモンドジュエリーの販売金額は400億ドル(約5兆400億円)個数5300万個でした。上にダイヤモンドおよび他の宝石の主要件町の研磨工の人数を記しました。研磨工の数は各国とも需給による変動が激しく正確にとらえることは難しいのですが、目安として参考にしていただきたいと思います。インドのダイヤモンドの研磨は、一つひとつ形の異なるものを、回転している円盤の上にこすりつけながら手で磨いて、あの硬いダイヤモンドに小さな58の面を正確につけていく、気の遠くなるような作業です。日本の一般的な労働賃金がインドの何倍ほどか単純に考えてみても、現在の宝石の価格は、インドの安くて優秀な研磨技術によるところが大きいことがわかります。タイでのルビー、サファイヤの研磨も盛んです。コストがじりじり上がってはいますが、現在までのところ国際的な競争力は保たれています。また中国の宝石需要、産出と研磨がいま注目されています。