ジュエリーを作るには、まず素材の調達から始まります。素材が劣っていると、デザインと作りがいくらか良くてもすばらしいジュエリーは生まれません。ちょうど料理の材料の鮮度の問題と似ています。料理ならば素材が悪いと食べられないか、後から後から腹の調子を悪くします。しかし宝石は、善し悪しに関係なくそれなりに商品になって売られてしまうので、わかりにくいものなのです。
次にデザインですが、宝石のデザインはレストランのメニューのようなものです。いろいろとおいしものはあっても、ヘビーかライトか何をそろえるのか選択しなければなりません。宝石は一生のものなので、気品があり、宝石が生かされた飽きのこないデザインが基本です。
そして作りは、宝石がきちんと留められていて爪が布に引っ掛からないかとか、仕上げはていねいかなど、見えないところに手をかけた料理と同じように、高品質のジュエリーの作りは知れば知るほど奥の深さを感じるものです。そのため加工費用が数十万円、手のかかるものは100万円を超えるものもあるのです。
第1章のクオリティスケールは、品質の全体像を示すと同時に3つのゾーン、ジェムクオリティ、ジュエリークオリティ、アクセサリークオリティをユーザーに理解してもらうために作られました。また一方でクオリティスケールは、メーカーの宝石の品質に対するこだわりを感じさせ、どのレベルのジュエリーを作るかの品質規格として使用できます。たとえばルビーの主石の明度を泡目の4Sにするのか、濃いめの6Sにこだわるのかはジュエリーの顔を大きく変えることになります。4Sは淡めですがひじょうにさわやかな美しいものになり。6Sを使えば伝統的なルビーらしい高級感のあるものになります。現在のところ6Sのほうが希少性が高く価値も高いと評価されていますが、美しさのみの観点からだと私は4Sのほうが上だと思います。明度6の宝石はモザイクのメリハリがはっきりついた場合は別にして暗すぎることが多く、明度4でSの宝石は鮮やかな色で美しいものが多いのです。将来は4Sのルビーに、より多くの人々が美しさを感じ、希少性が増して価値が高くなるかもしれません。
一方、ジュエリー生産も他の産業に見られるように発展途上国へ移動しています。しかし人件費の安い国への移動は、ある一定のシェアを占めても限界があると思います。その理由は、第一に、自動車生産に見られるように、使う人がいる国でデザインと作りの良いものが生まれるということです。第二に、宝石研磨は工賃が大きな割合を占めるので、人件費の安さが大きなポイントとなりますが、宝石入りジュエリーは素材が原価に占める割合が大きいことです。したがって、たとえば1000ドルのジュエリーに対して工賃の占める割合は200ドルが上限で、800ドルの素材費は世界中どこでもほぼ同じ価格というわけで、200ドルの部分が1/2、1/5になっても消費地と離れたところで作る諸経費などを考えるとおのずと限界が見えてくるのです。そして商品の価格はともかくとして、輸入されてからの流通経費は当然、国産品と同じだけかかります。しかしコストの問題よりも、どこで生産されようと50年、100年後にも評価されるジュエリーを作り、そういったものをユーザーが選べる環境を作ることが大切なのです。