1993年皇太子ご結婚に際し、皇后陛下は皇太子から贈られたルビーの指輪を雅子妃殿下に贈られました。一方英国では、王室の宝石はロンドン塔に展示されています。エリザベス王妃の戴冠式用に1937年に新調された王冠には、108カラットのインドのゴルコンダのコイヌールダイヤモンドが輝いています。これは、1911年にメリー王妃の戴冠式に使われた王冠から取り外してセットされたものです。また世界最大の3106カラットの原石から研磨されたメアリー王妃の王冠に留められていた、カリナンIII、IVも取り外されてエリザベス女王が使われています。価値の高い宝石は受け継がれ、リモデルされて使われているという好例です。宝石を買い求めている間ではなく、十分に所有して次の世代に渡し、リモデルをするようになって初めて、豊かであるといえるのかもしれません。日本でも母親から譲ってもらったジュエリーを身につけるのが若い女性のステータスになっていると耳にします。欧米のレベルにはまだほど遠いのですが、いつかそういった時代が到来するでしょう。
古代ローマの彫刻はその素材が金属であったため、溶かされて武器になってしまったと聞きます。そのときそれを模して造った石の彫刻が、現在のバチカン美術館に展示されています。ジュエリーの場合も、ゴールドやプラチナの金属はリモデルの時にほとんどの場合溶かされて再生されますが、宝石はそのまま生き続けます。こういった側面からも、宝石の力を感じずにはいられません。
第二次世界大戦中の昭和19年、交易公団で貴金属の強制買い上げが行われました。私の父は日本橋高島屋に持ち込まれるゴールドやプラチナの買い上げに従事しました。指輪や帯留めに留められているダイヤモンドをはずすのに職人さんが10人ほど配置されるという、かなりのペースでの買い上げだったそうです。貴金属は強制、宝石は任意買い上げでしたが、贅沢は敵といわれていた時代なので、100人に99人は宝石も売ってしまったそうです。この時、2700円で買った1カラットの並品が、終戦後昭和23年末には30万円に値上がりしたそうです。
私は父からこの話を聞いた時、これが宝石の資産性だと思いました。人間の作る体制は、どんなに万全を期してもはかないものです。そんな時、人間の作ったすべての仕組みや体制を越えて、宝石は力を持っていると思います。仮に昭和23年にダイヤモンドを売って事業を始めたとしましょう。自分自身のためだけでなく、それが雇用を促進し経済活性の一端を担うこともあるのです。人間が古来、宝石とともに歩んできたのはただ美しい物というだけではなく、こういったことの繰り返しでもあったのです。