オークション業つまり仲介業は、宝石の流通の一端を担っているといえます。家宝として次の世代に受け継がれていくジュエリーは別にして、オークションにかけられるのは、宝石という財産を換金したい、受け継いだ人がそれを気に入らないなど多様な理由からですが、いずれにしても資産の蓄えがあることが前提です。欧米では、いわゆるジュエラーもエステイト・ジュエリーコーナーを設けて、売りたい人のものを預かって買いたい人につなげるビジネスをしています。アメリカでは1980年にこの手のコーナーが急速に増えましたが、世代交代期になっていることと経済状況がよく反映されているのでしょう。
日本では、欧米のように宝石を売る所がないとしばしばいわれます。これは的外れな観察です。なぜなら日本は未だ宝石の買い手なのであって「使って十分楽しんで、次の世代にどんどん受け継がれている」という段階ではないのです。国民全体を見ると、十分に宝石やジュエリーのストックがあるところまで達していないのです。買ったものがすぐに売れる所を作ろうという考えを時に耳にしますが、そこにはどんな意味があるのか疑問です。
私も何回かクリスティーズ、サザビーズの宝石オークションに参加して、パドルを上げて落札したことがあります。欲しいものはなかなか買えないもので、会場の200名程度と、事前の札入れ、国際電話のオファーと競って、その最高値を取らないと自分のものにはならない仕組みなのです。
時に見込価格で100万円程度のものが3倍の300万円に上昇することがありますが、そういうジュエリーは、「素材が良い」「デザインが良く、現代でも十分通用する」「作りが良い」の三拍子がそろっています。そのうちの一つでも極端に劣っている場合には、見込価格に達せず引取不成立となってしまいます。"受け継ぐ人に喜ばれるもの"は一族の誰かに譲るにしても、仲介する人を通して他人に転売するにしても、この三要素を備えていることが大切です。