第1章では24の宝石について「品質の全体像」を示して、それぞれの宝石のジェムクオリティ、ジュエリークオリティ、アクセサリークオリティのゾーンを明らかにしました。またそれぞれの宝石の由来、伝統、特色、選び方などに触れてきました。第2章では、それらの宝石について人間とのかかわりという観点から考察していきたいと思います。
約46億年前に地球が誕生し、それから十数億年経った頃、初めてのダイヤモンドが地下120~150キロメートルの所で結晶しました。高い圧力と温度が加わって偶然結晶したダイヤモンドの一部が、地殻変動の結果、これもまた偶然に地表近くに運ばれたものを、我々が採掘しているわけです。宝石によって生成の仕方はいくつかに分類されますが、共通しているのは自然の力でさまざまな偶然が重なって生成されたということです。
ダイヤモンドをはじめとした結晶鉱物は短時間で結晶した後、何億年も地中深く眠っているのです。これに対し、非結晶鉱物のオパールは結晶鉱物と異なり、徐徐に時間をかけて約3000万年前に作られました。そして気の遠くなるような時間の経過の後、人間の手で宝石として磨かれるという事実を考えると、宝石のロマンを感じずにはいられません。
採掘された原石は今までの悠久の時間とは対照的に、短時間のうちに人間によって商品に姿を変え、使い手に渡されます。掘り出されてから研磨されて、ジュエリーに加工され、販売が成立するまでには1~3年程度かかると見られます。もちろん早いものは数ヶ月、時間のかかるものは10年程度経ってもまだ流通在庫のままということもあります。この期間は宝石が多くの人間の手にかかり、ドラマチックに活動する一時といえるでしょう。
研磨された宝石はジュエリー工場に持ち込まれ、デザインやコストが検討されたうえでジュエリーに形を変え、店頭に並びユーザーに届けられるのです。中には宝石のまま商品となり、ユーザーがデザインを決めてジュエリーに仕上げられるケースもあります。
使う人に渡ったジュエリーは、繰り返し繰り返し使われます。特に気に入ったものは数えられないほど身につけられます。たとえ100万円のものでも、一生で100回身につけたら1回あたり一万円です。そのうえ100万円のジュエリーは何十年後もきちんと価値を残しています。経済は長期的にはインフレで数百万になっている可能性があります。宝石は「楽しみ半分、資産半分」という言葉がありますが、良い宝石には長期的には十分資産性があるのです。
さらに使い手が年齢とともに受け継ぐ人に譲っていくところから、宝石の本当の活躍が始まるのです。身内ならばギフトとして、他人ならば仲介されてとケースはいろいろです。一度人間の手に渡った、品質の良い宝石は捨てられることはありません。当然美しい者は人気があり、身内にも喜ばれ、オークションでも高く売れます。宝石の価値は受け継がれる時にこそはっきりとわかるのです。
欧米では、オークションが盛んです。ニューヨークで大粒のダイヤモンドを見ると、たいていが受け継がれてきたものであるのに驚かされます。ダイヤモンドをはじめ、宝石の第二の供給源は環流市場なのです。20世紀になり、環流商品によって宝石の供給は飛躍的に上昇しました。現在の年間産出量は、宝石の種類や品質によって異なるとはいえ、大ざっぱには過去の総産出量の30分の1程度です。現状では、過去に産出された宝石が30年に一度環流してくると、新産宝石の産出に等しい量が毎年環流しているという計算になります。