サファイヤの産地と特色
宝石の原石は産地ごとに、色みをはじめ透明度、彩度、形(なり)などが異なり、産地特有の個性を持っています。カシミール産サファイヤの直線的なカラーバンドも固有のインクルージョンで、産地を決定する手がかりとなります。その原因は生成時の周囲の環境が異なっていたことにあります。現在では、分光光度計やIMA(イオン・マイクロ・アナライザー)での産地確定の研究も進んでいますが、はっきりした特徴のあるものは一目見て産地を読むことができます。ここでは八つのサファイヤの産地を比較し、その色の違いを把握しながら、カシミール産の際だった美しさを見ていきましょう。
スリランカ
スリランカは宝石の宝庫として、紀元前から現在までサファイヤをはじめ、ルビー、トパーズ、アメシスト、キャッツアイ、ガーネット、トルマリン、ムーンストーンなど多種の宝石を産出します。スリランカのサファイヤは大粒で淡めで透明度の高いものが多く、また若干の紫みがかった青がスリランカ産の美しさの源です。この写真のように濃淡のモザイク模様のバランスが美しい、紫みがかったものがスリランカ産のジェムクオリティです。
ミャンマー(ビルマ)
ミャンマーのモゴック産地の採掘は、15世紀以前には始まっていたといわれています。ミャンマー産サファイヤの産出量は少ないのですが、大粒で美しいものが採掘されます。ちなみに、この地方のサファイヤとルビーの産出量の比率は1対500といわれています。濃いブルーは、モザイク模様のバランスが良い場合はジェムクオリティとなりますが、不十分だと濃すぎるだけで美しさを失ってしまいます。また通常ミャンマー産サファイヤは加熱処理されません。
パイリン(カンボジア、タイ国境)
カンボジアの紛争地域であったパイリンでは、15世紀からルビーとサファイヤの産出があり、本格的生産は1875年から始まりました。かつて世界のサファイヤ生産の半分以上がパイリンで、品質に定評があり、1960年代後半まではパイリンサファイヤは重要な地位を占めていました。しかしこの写真のように若干濃すぎるものが多く、スリランカ産のジェムクオリティと比較すると残念ながら見劣りします。
カシミール
カシミール産サファイヤは、この写真のように優しい感じのブルーで、柔らかな色をしています。上品で落ちついたこくのある彩度の高い青は、言葉ではいい尽くせない美しさです。現在はほとんど産出がありませんが、100年前に大量に採掘、研磨されたものが徐々に環流しています。主要なオークションでは、アンティークジュエリーに必ずといっていいほどカシミール産サファイヤが見られます。またカシミール産サファイヤは通常加熱処理されていません。
モンタナ
モンタナ産サファイヤは1865年から知られていましたが、本格的採掘は1891年から金の採鉱とともにスタートしました。しかし、世界のマーケットに影響を与える量には達していません。モンタナ産サファイヤの特徴は、写真のように”水っぽい”ことで、必ずしも淡いというわけではありませんが、力のないブルーをしています。モンタナではほかにパープル、イエロー、グリーンなどのファンシーサファイヤが産出されます。