諏訪恭一、ジュエリーを語る

8. 表紙の指輪。

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『指輪88 四千年を語る小さな文化遺産たち』が、5月28日に淡交社より発刊されます。この本の表紙は、1700年前の古代ローマの金の指輪です。

この指輪は、横向きのオーバル形のべゼルの真中に鳥が深く彫られています。鳥のくちばしの下にある6個のベリー(果実)と、外周に沿ってギリシャ語でソフォロニウスという男性の名前が、ニエロ(銀と銅の合金)で黒くはっきりと記されています。リングサイズが4番と小さいことから、少年の指輪だと考えられます。

古代ローマ時代には、裕福な家庭はギリシャ人の家庭教師を雇って子どもの教育をしていたようです。この図柄から、鳥がベリーをついばむことや、食べた種がほかの場所にもたらされて、そこで新たにベリーが育つことを教えていたのかもしれません。親が勉強を始める子どもに渡して、成長を願ったのではないでしょうか。この指輪のタイトルは、「子どもの成長を願う指輪」です。

ほとんどのゴールドの指輪は、役割が終わると溶かされて別のものに作り替えられてしまいます。ゴールドは、お金そのものだからです。この指輪のように、1700年間も当初の形を留めているのは稀なことです。

このゴールドの指輪は、その後、何かの都合で墓や土の中にあったのでしょう。近年になって偶然に掘り出され、この美しさと珍しさゆえに、その形のままコレクションとして受け継がれてきた、貴重な文化遺産なのです。

2011/4/21