諏訪恭一、ジュエリーを語る

9. 『指輪88』と復刻版『ダイアモンド』。

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大正12年(1923年)発刊の岩田哲三郎著『ダイアモンド』が復刻されました。この本は、GINZA TANAKAの前身である山崎商店出版部から発刊されたもので、著者が1918年と1920年の二度の欧米視察で得たダイヤモンドに関する情報―鉱物としての特性、研磨や加工、世界の市場などが、わかりやすく記述されています。

岩田氏は、『寶石を單に傳家の至寶として珍蔵するよりも、装身具として佩用(はいよう)することが、一層人類本然の欲求に合致するものと言ひ得られる』と言い切っています。私は、宝石は身に着けて楽しむことに価値があり、投資と考えたり、大事にしまっておくものではない、と常々から思ってきました。岩田氏が90年も前に、ダイヤモンドの本質を「身に着けること」と言い切っていたことに驚き、感銘しました。

指輪は、「人の想いを入れておく箱」です。目で見たり、手に取ったりすることのできない「想い」を確認し、人に伝えることができる言葉のようなものです。明治から大正にかけて日本は西洋化されました。しかし、指輪や宝石は高価で珍しい存在として受け入れられはしましたが、「人の想いを入れておく箱」という文化的な側面は十分に理解されずに、今日まで来てしまったのではないでしょうか。

日本人は「想い」を俳句や短歌などで表現してきました。西洋から入った指輪が、すぐにそれに代わることはできなかったのです。『指輪88』と復刻版『ダイアモンド』の二冊は、「人は何のために指輪や宝石を身に着けるのか」を、私たちに語ってくれます。

写真右 : 指輪88 /
四千年を語る小さな文化遺産たち
淡交社

指輪88

写真右 : 復刻版『ダイアモンド』
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ダイヤモンド

2011/5/17